4-4 計算科学研究センター
1977年4月に設置された分子科学研究所・電子計算機センターは,2000年4月より分子科学ばかりでなくバイオサ イエンス分野の計算科学を含めた岡崎国立共同研究機構・計算科学研究センターに改組され,2004年4月からの法人 化にともない自然科学研究機構・岡崎共通研究施設・計算科学研究センターへ改組されて今日に至っている。この間, 一貫して計算科学分野の学術研究発展の先導的な役割はもとより,全国共同利用センターの中心拠点としての役割を なしてきている。外部評価点検項目資料として,
(1)センターの概要 (a) 自然科学研究機構組織図 (b) 沿革および歴代センター長 (c) 構成員
(d) 計算科学研究センター運営委員会
(2)共同利用
(a) 共同利用の運営方針 (b) 機器構成とキュー構成 (c) プログラムリブラリ一覧 (d) システム利用状況 (e) 成果論文数
(f) 分子科学分野への貢献
(g) スーパーコンピュータワークショップ (h) 定例会議
(i)スタッフ主催の研究会
(3)計算分子科学研究系 (a) 計算分子科学研究系の新設
(b) 巨大計算に基づいた分子・物質シミュレーションナショナルセンターの形成
(4)NA R E GI(超高速コンピュータ網形成)ナノサイエンス実証研究プロジェクト
(5)ネットワーク等その他の活動
の5章からなる冊子を作成して,これと過去3年間のセンターレポートを外部評価委員の平尾公彦教授(東京大学工 学系研究科)と樋渡保秋教授(金沢大学大学院自然科学研究科)に事前に送付して,2004年12月24日の朝9時から計 算科学研究センター会議室で各項目の補足と説明を行って外部評価のインタービューを受けると同時にセンターの施 設を見て頂いた。センター側からは,中村宏樹(分子研所長),永瀬 茂(センター長),岡崎進(センター教授),森 田明弘(センター助教授),水谷文保(センター技術職員),矢崎稔子(センター技術支援員)の6名が出席した。
4-5-1 外部評価インタービュー
以下のような意見や課題が提案されて討論が交わされた。
・スパコン,汎用コン更新時には電力キャパシティを考慮に入れることが重要。導入後パンクしないように。
・更新が5∼6年ごととなっているが,5年経つと技術も古くなってくるため新しい更新方法を考えるべき。例えば5 年後の目標を高いところに定め,そこへ向かって2∼3年ごとに部分的に更新をする多段階更新という方法もある。
・10年ほど前から安価で高性能なコンピュータが普及し,研究室でも大規模な計算が可能になった。それに伴い単に ハード的なサービスだけを行うような大型計算機センターは存続の意義を問われている。計算科学研究センターは研 究を含むソフト面でのサービスをさらに充実し,分子科学のナショナルセンターとしてリーダーシップを取っていく べきである。
・計算科学研究センターは分子科学研究の拠点として必要である。そのため,さらに特徴あるセンターとして発展させ ていくべきである。
・岡崎3研究所では分子科学だけでなくバイオやナノなど様々な分野の研究が行われており,他のセンターにはない特 徴が打ち出せる。また分子科学の研究手法も多様化しているので題材は豊富にあり,様々な大規模計算に利用できる。
・共同利用のサービスも大事だが,国内の計算科学分野研究のリーダーとして魅力ある提言をする。
・ハードだけでなく,ソフト面でもネットワークを構築する。ヒューマンネットワーク,即ち「人が集まる」こと。特 に今後はアジアの研究者へシステムを開放してはどうか。分子研で学んだ人が母国へ帰ってからシステムが利用でき ることが重要。具体的には共同研究を重視し,セキュリティの確保にも配慮すべきである。
・今年度からの大規模計算用のキュー改善は結構なことである。センターではさらに通常の研究室ではできないような 大型計算を目指すべきである。
・重要であるにもかかわらず,大規模な計算を伴う研究が思うように増えてはいない。大型ジョブを使うように地道に 呼びかけることが重要。
・当センターの短中期の明確な目標,方針を打ち出し,魅力あるキャッチフレーズを発信していく。
・コミュニティのサポートを得ることが必要。研究会等でユーザの声を集め,センター利用の研究成果とともにセン ター存続に役立てる。
・計算科学は将来が見えていない楽しみな分野。従来の学問とは異なる価値観や統合性があり,新しいものを生み出す 力がある。しかし,計算科学を教える機関が少ないため分子研が教育プログラムを打ち出し,若い研究者の育成を目 指す。
・集中講義などの教育プログラムは単発では意味がない。継続して定期的に行うことで分子科学の将来について若い研 究者を交えた話し合いの場となる。若い人に夢を与えること重要。
・上記のような新しい事業を展開するために,人員増も含めて組織の充実を図ることが望ましい。
・大学と異なり大学院生という戦力が不足している分子研では人員の確保にも工夫が必要。研究,技術,事務はそれぞ れ責任を持った形で運営することが望ましい。事務系のトップがセンター長を務めることもありえる。
我が国唯一の分子科学計算のための全国共同利用センターとして大きな貢献をなしてきているが,新しい特徴を打 ち出して,分子科学を基盤とする国内の計算科学の裾野を広げて,国際的に先導的な研究の発信拠点としてのさらな る強化と進展が強調された。このためには,共同利用のためのハードウエアとソフトウエアの充実したサービスばか りでなく,計算科学研究のナショナルセンターとしてリーダシップを取っていくことが求められた。また,計算科学 研究分野の若い研究者や大学院生の育成のための教育の重要性が提言された。これらを実行するために,センターの 人材の確保と補強の必要性が指摘された。
4-5-2 外部評価委員の報告
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先端の研究拠点としての役割を担ってきた。同様に分子科学研究所の計算機センターは最新の計算機を分子科学の研 究者に提供することにより,わが国における計算化学,シミュレーション研究に多大の貢献をしてきた。特に創立後 の10年間は,大学における計算機事情が悪かったせいもあり,当計算機センターの果たした役割は大きい。当時,日 本中の多くの分子科学研究者が分子科学研究所や計算機センターに集った。計算機を利用する目的で分子科学研究所 を訪れた研究者や大学院生は互いに交流を深め,研究面で活発な議論を展開した。こうした交流から共同研究に発展 した例も少なくない。計算機センターは,結果として,競争的な環境で研究者の連携の場を提供してきたといってよ い。同時にわが国の計算化学あるいはシミュレーション科学のレベルを一気に世界的レベルまで引き上げた。計算機 センターのミッションは創立以来30年近く経った現在も変わることがない。世界のトップクラスの研究レベルを維持 するとともに,わが国の分子科学研究者に最新の計算機環境を提供している。
しかし計算機をとりまく状況は創立当初とは大きく変わっている。ネットワーク環境が大幅に改善されたこと,廉 価な計算機が普及することで大学や研究室の計算機能力が大幅に充実したことにより,研究者は分子科学研究所の計 算機センターを訪れることはなくなった。もっぱらネットワークを介して分子科学研究所の計算機を利用するか,あ るいは研究室の自前の計算機を利用するようになってきた。かっては多くの研究者で賑わっていた計算機センターの 2階にある計算機利用者控え室も現在は閑散としている。コンピュータネットワークの発展が逆にヒューマンネット ワークを弱めるという皮肉な結果を招くようになっている。こうした現象は分子科学研究所の計算機センターばかり ではない。全国共同利用の大学の計算機センターでも同じような状況にある。利用者数が激減し,その存立自体が議 論の対象になろうとしている。おそらく大学の計算機センターや国立研究所の計算機センターは早晩,統廃合される であろう。大学の計算機センターは図書館機能を備えた情報基盤センターの色彩を濃くするであろうし,研究所の計 算機センターは分野別のナショナルーセンターとして選別されるであろう。
計算科学研究センターはどうあるべきか? これまでわが国の分子科学の発展に果たしてきた役割を考えるならば, 分子科学におけるナショナルセンターとして一層の発展が望まれている。そのためには分子科学の研究者,学会のこ れまで以上のサポートが何より必要である。同時に計算科学研究センターは利用者の要望に応えるべく努力すべきで ある。最新の計算機パワー,研究室レベルの能力とは1桁あるいは2桁以上高いパワーを備え,長時間 job や超パラレ ル jobを可能にし,計算化学,シミュレーション分野のチャンピオンデータがいつもこの計算機センターから生まれる ような環境を実現せねばならない。ハード面ばかりではなく,ソフト面での充実も一層,重要となる。それがナショ ナルセンターたる所以である。利用者はそれに応え,時間に耐えうる成果を出させねばならない。両者の緊張感ある 連携がナショナルセンターとしての計算科学研究センターの地位を確立することになる。現在の計算科学研究センター は少数の教員と職員の献身的な努力で維持されている。ナショナルセンターを目指すのであれば,計算科学研究セン ターの人的パワーを抜本的に補強する必要がある。
望むべくはかってのように多くの人が出入りする計算科学研究センターにしていただきたい。これは分子科学研究 所の課題でもある。研究所は人がすべてである。傑出した人材を揃え,優れた研究成果で世界のリーダーシップをと ることが必須条件である。それによってはじめて全国の分子科学者や若い大学院生が研究所に魅力を感じ,研究所に 足しげく通うようになる。全国規模のプロジェクトの実施やシンポジウム開催,夏の学校など若手研究者や大学院生 の育成プログラムを実施し,分子科学のセンターとしての役割を果たさねばならない。
現在いろいろな方面で急激な国際化が進んでいる。分子科学研究所はわが国だけでなく,世界の研究者にとっても 魅力ある研究環境を実現するためにさまざまな取り組みを行ってきた。同じことは計算科学研究センターにもいえる。 そろそろ計算機パワーを国外,特にアジア地域の研究者に開放することを考える時期ではないかと思う。実施に移そ
うとするとセキュリティー問題をはじめ難しい問題があることは承知している。しかしぜひ実現していただきたい。
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(1)分子科学は計算科学の発展なくしてありえない
分子科学はあらゆる物質科学の基礎となるものであるが,計算科学は物理,化学,生物学などを横断することが可 能な(唯一の)科学であること,また異なるスケールをも横断して科学する手法としても極めて有用なものである。今 後もこのような計算科学の特長は失われそうもない。このような意味で分子科学研究所に計算科学の研究者が相当数 の規模で必要であると考える。さらに,計算科学研究所に隣接する他の研究所群(バイオ,ナノなど)の協力を前提 に考えれば,計算科学を必要とする考えが更にアップすることは疑いない。このような地理的な特長とそれらの学問 の関連の大きさを最大の武器として国家的な観点にたち,全国規模の計算科学研究(所またはセンター)を発想する ことに賛意を表す。そのために如何なる理論武装しなければならないかが問題であるが… … 。
(2)計算科学は実験科学の側面を有する
計算科学はコンピュータを実験装置とした実験科学でもある。このことは以下のことを意味する。まず,最先端の コンピュータ(実験装置)群が不可欠である。このコンピュータ群には高速演算可能な計算機もあれば,並列計算を 得意とする計算機もあるが,解析を得意とするコンピュータ,動画像を行う端末装置も含まれる。もちろん,ソフト 面の支援も重要である。これらの装置は実験装置と同じく,賞味期限があり,最先端の実験装置としては長くて5年 程度であろう。従って最先端の計算機環境を保持し続けるには相当規模のお金が必要である。計算科学研究センター の重要な役割の一つに,これらの研究環境を維持し,全国共同利用のサービスを一部行うこともあることを忘れては ならない。多くの大学の研究室で大型の計算を行うことは現在でも困難である。さらに高価な計算ソフトをはじめ動 画像装置などを研究室毎に用意することは不効率でもある。最先端の装置を導入・維持し,その使用法に関するコン サルタント的なサービスをも行うことが可能な全国的な機関がどうしても必要である。
(3)計算科学の教育は大学のカリキュラムに少ない
計算科学を専門とする学科は例外を除いて皆無に等しい。計算科学の教育は既存の学科の中のごく一部のカリキュ
ラムとして行われているところはあるが,コンピュータシミュレーションを必要とする幅広い層に役にたつには質量 ともに程遠いものである。現在のコンピュータシミュレーションでは MO(分子軌道),MD(分子動力学),MC (モ ンテカルロ)を組み合わせた方法が主流となりつつあることから,MO を中心とした計算化学とか,第一原理計算 and/ or 物理モデルといった狭い内容では実際の研究との距離が大きく出てしまいかねない。このことを一部改善するため にも計算科学研究センターが全国の大学院生や若手研究者を対象とした計算科学のカリキュラムを積極的に行うこと を提案したい。大学の授業にないものを定期的に(たとえば夏とか冬)行えば受講者にもまた主催者側にも相当の効 果(意味は異なるが)があるように考えるが如何だろうか。蛇足ながら,この授業の担当者となるのは必ずしも計算 科学センターのスタッフである必要はない。全国の関連する専門家のボランティアを基本とすることがよい。
以上の観点からみても,現行の計算科学研究センターの評価はおおむね良好と判断したい。共同利用サービスの充 実,全国共同研究(NA R E GI)の推進,研究活動のいずれにおいても良好と判断できる。また計算分子科学研究系の新 設により研究活動に積極的な姿勢は評価できる。将来構想としてのシュミレーションナショナルセンター構想をより 具体化し,全国に先駆けて使命を果たすことの責任を期待したい。